「創業家」の力まざまざ 「平成の大統合」つぶす
出光と昭和シェル 統合合意していたものの…
いきなりの質問で恐縮だが、「創業家」という言葉にどんなイメージをお持ちだろうか? 「遺物」「死語」「名誉職」「存在感なし」「お飾り」…。さまざまなイメージが思い浮かぶ。ネット全盛の現代にあって、創業”家”という言葉自体に違和感がある、という方も多かろう。
とっくの昔に死語になっていると思われていた「創業家」が久々に脚光を浴びたのが、「平成の大企業統合」として注目されていた石油元売り大手の出光興産と昭和シェル石油の企業統合が、出光創業家の強硬な反対でご破算になったのがきっかけだ。出光と昭和シェルの経営統合が合意されたのは2015年7月だった。
「統合反対」の出光創業家、取締役全員の選任に反対
ところが、2016年6月の出光の株主総会で、出光昭介名誉会長の代理人弁護士が統合反対をブチ上げ、取締役全員の選任に関する反対投票をしたことで、創業家と経営陣の対立が明らかになった
出光創業者は「海賊とよばれた男」…その魂受け継ぐ
2017年度の幕開けとなった4月1日、企業統合による新会社が続々と誕生する中、4月に統合することで一時は合意していた両社による新会社の産声は聞かれなかった。両社の企業統合が困難であることは、2016年10月に両社の社長が記者会見を開いて、出光創業家側に企業統合に向けての協議の再開を求めたが、面会すらできていないという状況のため、2017年4月としていた経営統合の時期を撤回したことから統合が暗礁に乗り上げていることは既定の事実となっていた。それだけに驚きはない。
出光の創業者と言えば、百田尚樹氏の大ベストセラー「海賊とよばれた男」(講談社)のモデルである出光佐三(さぞう)氏(1995-1981年)。この本は映画化もされ、主人公である鐵造(てつぞう)として描かれた出光佐三氏は、大和魂の塊のような骨太で頑固一徹の人物だった。かつては「セブンシスターズ(7人の魔女)」と呼ばれた海外の巨大石油資本を相手に戦い抜いた佐三氏なら「統合絶対反対」と強硬に主張しただろうと容易に想像がつく。やはり創業者の魂は今に受け継がれていたようだ。現経営陣は、創業家の反対は押し切れるとみていたのかどうかは定かではないではなが、創業家の「反対」を翻意させることはできなかったようだ。
予想外だった? 創業家の”逆襲”
ここで冒頭の質問に話を戻してみよう。大企業に巨額の資本が必要になった現代では、株式を公開している以上、大企業での創業家のワンマン経営というのはあり得ない。創業家の当主が社長を務めているトヨタ自動車は例外中の例外で、創業者の息子の出光昭介氏が名誉会長を努めている出光興産のケースが関の山で、「社主」「オーナー」「最高顧問といった名誉職の位置付けの企業が多く、経営の第一線から距離を置いていることが多いようだ。「死語」「名誉職」「存在感なし」などのイメージを持たれるゆえんだ。
今回の統合ご破算劇は、経済界に驚きの目で見られているが、創業家が存在感を示した”逆襲”という面もなくはないが、サラリーマン社長にとっては首筋が寒くなる出来事だったことは確かなようだ。