良いシナリオが描けないトランプ・シミュレーション
アメリカ大統領選でのトランプ氏当選を受け、アメリカ株は急騰し、2016年11月現在も利益確定の売りで反落することはあっても高値を維持している。視線を日本に向けても、日経平均株価は18,100~18,500円の幅で推移し、トランプ次期大統領を好感しているように見える。
大統領就任は来年1月なので「ご祝儀相場」と呼ぶにはまだ早いが、「意外に無茶をしないのではないか」という観測が市場の緊張を和らげたといえそうだ。
しかしトランプ氏は、TPPからの離脱やキューバとの国交回復合意破棄を明言していて、日本のエコノミストたちは、トランプ大統領が誕生した後のシミュレーションを薔薇色には描けていない。さらに国内の設備投資と個人消費はどちらも停滞していて、アベノミクスによる自力復活の道も険しそうだ。
円安傾向は続きそうなのに企業の腰は重い
2016年7‐9月期国内総生産(GDP)速報値は、前期比・年率プラス2.2%と堅調だった。ただ中身を見ると、個人消費は小幅なプラス、設備投資は横ばいと「相変わらず」内需に力強さはなく、これも「相変わらず」の外需頼みである。
「トランプおめでとう相場」の影響は円安をもたらし、11月下旬は1ドル110円付近で推移している。米連邦準備理事会(FRB)も12月に利上げに踏み切る公算が大きく、円安傾向は継続しそうだ。日本の輸出産業には追い風が吹いている。――といきたいところなのだが、国内のエコノミストの論調は固い。
アメリカの関税引き上げが確定すれば投資はアメリカに向く
SMBC日興証券は「トランプ政権の政策が明確にならないと、日本企業は設備投資に動けない」と国内の状況を解説している。トランプ氏は輸入関税の引き上げを強く示唆しており、自動車や電子部品などアメリカ向けの輸出に頼っている日本企業は慎重姿勢を崩せない。
またトランプ氏はアメリカ国内の法人減税を打ち出しているので、日本企業もそれに引っ張られる形でアメリカへの投資を加速しそうだ。つまり日本企業による日本国内への投資額は相対的に減るということだ。
トランプリスクはないのか? それとも織り込まれていないのか
日本のエコノミストが「明るい未来」を想定できないのは当然で、アメリカのエコノミストたちも悲鳴を上げている。11月29日付の日本経済新聞の記事に、アメリカの調査会社の担当者が「政治担当のエコノミストが数字を出してくれない」とぼやいている、というエピソードが介されていた。つまり、トランプ氏の動向をウォッチしている政治担当者エコノミストが政策を読み切れないため、政策の影響額を試算するエコノミストの仕事が進まないのだ。
日米双方の経済活動を冷やす政策が取られないことを祈るばかりだが、ということは、現在の日米同時株高は、トランプ氏が採用するかもしれない「無茶な政策」を織り込まないまま推移している可能性がある。
高くて遠くて分厚い600兆円のハードル
安倍政権が目指す名目GDPは600兆円だが、2015年度は500.6兆円にすぎない。暗い材料といえるトランプ次期政権が見通せず、明るい材料といえる2020年東京オリンピック・パラリンピックはトラブル続きである。エコノミストたちが頭を抱えるのも無理はないだろう。(設備投資ジャーナル 編集部)