2017年のヒット商品を占う
年初めには毎年、「今年のヒット商品」予想が新聞やテレビで取り上げられる。この1年がどんな年になるのかを考えるうえで、予想してみるだけでも興味深い。当たる当たらぬは別として、しばらくお付き合い願いたい。
まず、材料が必要だ。ヒット商品といえば日経BP社の月刊情報誌「日経トレンディ」の十八番。
2015年10月から2016年9月までに発表された商品やサービスを、「売れ行き」「新規性」「影響力」の3項目で判定してヒットの度合いを評価し同誌が選定したベスト10は以下の通りで、キーワードは「スマホ向け」のようだ。
1位 ポケモンG O(スマホ向けゲームアプリ)
2位 君の名は。(東宝制作のアニメ映画)
3位 IQOS(アイコス=煙が出ず、健康への悪影響がないとされる加熱式たばこ)
4位 インスタグラム(画像や動画を共有する無料のスマホ向けアプリ)
5位 メルカリ(スマホでフリーマーケットの利用ができるアプリ)
6位 スイーツデイズ 乳酸菌ショコラ(乳酸菌をチョコレートで包んだロッテの菓子)
7位 新型セレナ(日産のミニバン)
8位 レノア本格消臭(嫌なニオイを無臭化する柔軟剤)
9位 クッションファンデ(クッションスポンジに液状のベースが染み込んでいるファンデーション)
10位 グリーンスムージー(生の葉野菜とフルーツと水をミキサー(ブレンダー)で混ぜ合わせた飲み物)
隠れたヒット 画期的抗がん剤「オプジーボ」
ただし、2016年に爆発的に売れて話題になったものがランキングから抜けている。小野薬品が開発・販売している抗がん剤「オプジーボ」だ。「夢の抗がん剤」と呼ばれ、10年前には5千円台そこそこだった小野薬品の株価を一気に1万円超のレベルにまで引き上げた薬だ。
"ノーベル賞もの”の抗がんメカニズム よく効くが高い
オプジーボは新しいタイプの抗がん剤で、「よく効くが高い」ことで知られる「夢の抗がん剤」だ。京都大大学院の本庶佑客員教授らのグループがメカニズムを発見し、一部の皮膚がんの治療薬として2014年9月に小野薬品から発売された。
このメカニズム発見は「ノーベル賞もの」とまで言われ、当初は、日本では患者の少ない悪性黒色腫(皮膚がんの一種)の治療薬として保険適用が認可されただけだったが、2015年12月に肺がんにも適用が認可された。
株価急騰 一気に2万円超にも
この薬のポテンシャルに期待してか、株式市場は敏感に反応。小野薬品の株価は発売開始1年前の2013年から急騰した。2014年の発売当初は、適応症は日本では患者が少ない悪性黒色腫だけだったが、適応症を肺がんにまで厚生労働省が承認した2015年12月18日には、2万2400円という高値を付けた
厚労省悲鳴「医療保険制度が崩壊する」
臨床で使われ始めると、「効果は画期的だが、薬価が高過ぎる」とし論議の対象になった。体重60キロの肺がん患者が点滴として使用すれば、年間約3500万円かかるとされることから、医療保険財政への影響が懸念され、公的医療保険制度が崩壊しかねないとして、厚労省はオプジーボの薬価を、2017年2月から50%引き下げることを決めた。
株価が急騰するほどのヒットとなったオプジーボだが、日経トレンディのヒット商品のランキングに入っていない。今回の選定対象が2015年10月から2016年9月に発表された商品やサービスになっているためで、2014年に発売のオプジーボは外れたのだ。この制約がなかったら、堂々とランキング入りしていたことだろう。オプジーボのヒットスケールの大きさは、国が価格にまで介入していることからもうかがえる。
とはいえ、オプジーボの薬価をめぐっての論議で、オプジーボの抗がん効果への信頼は揺るぎないものとなった。製薬業界の関心は、今やオプジーボのジェネリック薬品(後発医薬品)の開発に向けられている。
注目のオプジーボのジェネリック 早くても20年後
医薬品の特許が切れるのは発表から20年後なので、オプジーボのジェネリック薬品が出るのは早くても20年後。本欄のテーマは「今年のヒット商品を占う」だが、オプジーボのジェネリック薬品は2017年のヒット商品にはなり得ない。20年後のヒット商品を目指し、”ポスト・オプジーボ”への闘いは水面下ですでに始まっているにちがいない。
2017年のヒット商品はカジノ関連? それはちょっと気が早い
それでは、2017年のヒット商品はどんなものになるのだろうか?
論議を呼んだカジノ(IR)法が2016年暮れに成立したことから、カジノ(IR)関連のものを考える人が多いかもしれないが、法律ができたからといって2017年にカジノがすぐできるわけではない。しかし当面は目が離せない分野であることは間違いなさそうだ。2016年のヒットにならえば、「スマホ向けアプリ」で「カジノ関連」がキーワードと言えるかもしれない。(設備投資ジャーナル 編集部)