工場・物流施設を中心とした設備投資情報を配信

トランプ氏、米大統領就任 日本への影響は限定的か?

2017年1月23日
トランプ氏、米大統領就任 日本への影響は限定的か?

 「とうとうドナルド・ジョン・トランプ大統領が誕生してしまった」多くのマスコミの報道を要約すると、その一言になる。ここ日本でも、関係者たちは「何が起きるのか」「どれくらい悪化するのか」と心配している。

 しかしここであえて、楽観的な仮説を立てみたい。「トランプ大統領誕生による日本への影響は限定的なのではないか」という内容だ。

日本政府の冷静な対応が影響を最小限に食い止める?

 「トランプ大統領の影響、限定的」説のひとつめの根拠は、日本側の冷静な対応である。トランプ大統領を迎えるホワイトハウスは20日、ホームページにおいてTPP(環太平洋パートナーシップ)協定から離脱することを正式に表明した。TPPは安倍首相の悲願の政策だ。それを世界的な記念日に蹴られたにも関わらず、安倍首相は寛容な態度で対応した。

 これを「日本の弱気外交」と取ることもできるが、しかし世界のリーダーの中では、トランプ氏は「新人」である。一方の安倍首相は、もう何度もサミット先進国首脳会議に出席し、各国首脳に名前を売っている。なので、安倍首相の外交の経験値が、「トランプ大統領歓迎」を打ち出したともいえる。

トヨタ叩きは限定的ではないか?

 トランプ氏はトヨタに対して「メキシコに工場を建てるなら、関税を上げて仕返しをしてやる」といった内容の「口撃」をしかけてきた。トヨタ自動車の豊田章男社長はすぐに、アメリカ国内で100億ドル(1兆円超)の投資をする計画を発表した。ただ同時に、トヨタのメキシコ投資は中断しないとした。

 トヨタのこの言動を解釈すると、少々言葉は汚くなるが、「トランプ大統領のご機嫌うかがいはするが、屈することはない」ということではないだろうか。

 しかしだからといって、トヨタが強気に出ているとも思えず、冷静に検討した結果、「屈する必要はない」と判断したのだろう。ここから「トヨタもトランプの影響は限定的と見ている」と読み取ることができる。

 メキシコには、日産の工場もホンダの工場もある。なのでメキシコからの関税が上がれば、日本メーカーは大打撃を受ける。しかしアメリカ企業のGMもメキシコへの投資を拡大する。つまり、トランプが自動車関税を引き上げれば、自国の巨大企業GMの首を絞めることになる。

 GMは一度経営破綻しているくらいなので、日本の自動車メーカーより経営基盤が弱い。つまり関税を上げることによるダメージは、まずGMに現れるだろう。つまりトランプの「日本メーカーのメキシコ工場叩き」は「GM叩き」になってしまう。やはり「トランプ大統領の関税策も限定的になる」と予想せざるを得ない。

シェールを売りたいから限定的になる?

 トランプ大統領は「よその国がアメリカにモノを売りたいなら、アメリカに利益をもたらせ」と言っているが、ではアメリカの利益とはなんだろうか。答えは単純で、日本を含む他国が、アメリカの商品やサービスを買うことだ。

 2016年1月6日、アメリカで作られたシェールガス由来の液化天然ガス(LNG)が、初めて日本に上陸した。中部電力が購入したものである。シェールオイルもシェールガスも、原油相場が安値に動くと途端に採算割れを起こすコスト高なエネルギーなので、アメリカとしてはとても売りにくい商品だった。しかし日本には、多少割高でもシェールを買いたい理由がある。それはエネルギー政策であり、安全保障政策であり、つまりエネルギーの調達先を増やしたい。

 日本は長年、エネルギーを中東に依存してきた。しかしこの地域は政情が不安定だし、何しろ日本から遠いので、一般の日本人にはあまり親和性がない。中東15カ国+1自治政府をすべて挙げられる日本人は何人いるだろうか。

 一方のアメリカは、日本の同盟国であるし、日本人は大のアメリカ文化ファンである。なので、日本人にとって「アメリカからエネルギーを買う」ことは、とても自然なことに映る。

 そしてトランプ大統領は、アメリカ国内のシェール企業と親しい。例えばシェール企業のコンチネンタル・リソーシーズのCEOは、トランプ氏が大統領選を制したときに「シェールへの過剰な規制が消える」と大喜びした1人である。

 アメリカのシェール企業にとって、多少割高でも買ってくれる日本ほどうまみのある市場はない。よって、シェール企業の友人であるトランプ大統領が、日本のエネルギー政策に茶々を入れることは限定的とみるべきではないだろうか。

用心と警戒があってこその楽観視

 冒頭で「トランプ大統領就任の影響は限定的」という見方は「仮説」であることをお断りした。しかしこの「仮説」は、「逆説」かもしれないし「あり得ないこと」かもしれない。それでも「あえて」こうした楽観論を示したのは、トランプ大統領の派手な一面だけに集中しないためだ。

 もしあの異常にも見える言動が、トランプ氏の意図的なパフォーマンスだとしたら、この新大統領は相当手強い。だから日本としては、トランプ大統領の意図を見抜く力を身に付けなければならない。

 もし「影響限定」説が説得力を持ったとしても、「だから用心する必要はない」とはならない。楽観的な見方をしながら、用心の上に警戒を怠らないからこそ、影響を最小化できるのである。(設備投資ジャーナル 編集部)

このエントリーをはてなブックマークに追加