工場・物流施設を中心とした設備投資情報を配信

東芝、シャープの悲劇 工場立地自治体を直撃

2017年2月21日
東芝、シャープの悲劇 工場立地自治体を直撃

 道府県や市町村など地方自治体にとって、優良企業の工場を誘致することは、固定資産税などの税収確保によって財政基盤を強化につながる。それだけでなく、地元雇用の確保という大きな成果につながり、一石二鳥の効果が期待できる。

せっかく誘致した工場、実は本体の経営が…

 しかし、せっかく誘致した「優良企業」が、実は「優良」ではなく、不正会計処理を繰り返して経営不安を抱えていた、というとんでもないことが、昨今は珍しいことではなくなってきた。
 そんな例が三重県内で相次いで起きている。シャープの亀山工場(亀山市)では、「亀山モデル」のブランドで知られる液晶テレビを作り、シャープの主力工場として高い評価を受けてきた。

三重県に「看板工場」 「優良」のはずのシャープ、東芝、ともに経営悪化

 そのシャープは経営悪化によって台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入ることになっており、亀山工場の先行きは見通せない状況に追い込まれている。さらに三重県には四日市市に、米国の原発事業を巡る巨額損失で経営再建中の東芝の工場もある。東芝四日市工場では、主力製品として知られる半導体の「フラッシュメモリー」を製造していることもあって、工場は増築に増築を重ね規模は拡大の一途だった。当然、固定資産税は増え続け、三重県だけでなく地元の四日市市の財政も潤い、東芝からの税収なしでは市の予算編成ができないと言われるほどになっていた。
 シャープの亀山工場、東芝の四日市工場はともに高速道路のインターチェンジに近いという物流面での好条件に恵まれ、気候温暖な土地柄もあって、工場は主力工場として両社の経営を支えるほどの看板工場だった。それだけに、地元での信頼は厚く、雇用を希望する人が多く、憧れの職場となっていた。それが、まさか、本体の経営が危うくなることなど想像もできなかったことだろう。「優良企業」の「看板工場」が2つも立地し、"左うちわ”のはずだった三重県の財政担当者をはじめ行政関係者が「こんなはずでは」と頭を抱えている、という新聞報道が目立つのも当然のことだろう。

「一見、優良企業  でも、内実は…」

 今回の”非常事態”は、他の自治体にも教訓となっている。「一見、優良企業のようでも、内実は分からない。工場誘致する企業の経営状況の実態や財務内容の調査に念には念を入れる必要がある」といった反省の言葉を、会議の席で漏らした行政関係者がいたと聞く。2社のうち東芝は、債務超過を解消して財務状況を改善し危機を乗り切るために半導体事業を売却する方針だ。

東芝、半導体事業を売却方針 工場は残るけど…ブランドは?

 工場が売却されても、四日市工場がなくなるわけではない。しかし、半導体事業の売却先によっては、四日市市は、市民に親しまれてきた「東芝」というブランドを失うことになりかねない事態も予想される。売却先の選定にあたって、東芝は雇用の確保を最優先で進めているが、「外資系企業に売却されたら…」との従業員の不安は消えない。
 こうした問題を抱える2工場が立地する三重県の財政基盤も揺らいでいるはずだ。三重県の財政担当者にとっては頭の痛いことこの上ない状況だろう。

「一度工場を開いて地域の経済に貢献すると決めた以上…」

 工場と工場が立地する地元との関係を考えるとき思い浮かぶ記憶に新しい言葉がある。メキシコでの工場建設計画をめぐって米国のトランプ大統領から「とんでもない」と攻撃を受けたトヨタ自動車の豊田章男社長の言葉だ。「一度工場を開いて地域の経済に貢献すると決めた以上、工場建設計画の変更はできない」と言い切った。工場を造ることが地域にどれほど大きな責任を持ち、影響を与えるかを知り抜いた経営者ならではの誇りと責任の重さを表した言葉と言えるだろう。この言葉、国内での工場建設にもそのまま当てはまる。日本を代表する企業のトップならではの矜持(きょうじ)を感じさせる。

このエントリーをはてなブックマークに追加